「アメリカの大統領選挙にはアノマリーがあります。
経済が好調で株価が堅調な時には現職が有利になるというものです。
今回は、そのアノマリーを覆す結果となりました。
トランプの岩盤層の支持がその背景です。」
■先週開示された雇用統計は新規就業者数が22万人と増加し、失業率も
若干上昇はしていますが4.2%と低位に安定しています。
いかにもアメリカの経済は順調そのものに見えます。
しかし、事業所側の統計ではなく、労働者側の統計を見ると別の側面
もあります。
何人雇用したかという事業所サイドの統計と就業しているか否かと自己申告
を集計する統計がアメリカにはあります。
それによると20週間(約半年)就業していない人の数が増加していることが
分かります。20%近くまで上昇したその数は、この側面からは明らかに
景気の停滞を示しています。
雇用募集総数は700万人を超えており、職を選ばなければ、従業することが
可能なのが今のアメリカです。
なぜ、20週間も就業していない人たちがいるのか・・・
それは仕事をえり好みしている人たちが多いという事でもあるのです。
■事業を経営している側からすると労働者は「若い」「安い」「能力が高い」
という人が最適です。
移民の人たちにはこういう人たちが多くアメリカの経済を支えています。
トランプの岩盤層と言われている人たちは、とりわけ、五大湖周辺の
ラストベルトと呼ばれる地域の労働者や失業者です。
かっては、自走車生産などの「熟練工」として重宝された人たちです。
UAWという組合組織で賃金も高い水準にあり裕福な生活を送ってきた人たちです。
しかし、高い賃金で製品価格を引き上げ続けた結果、自動車は日本車などとの
競争に敗れ、電気製品も破れ、繊維製品も敗れ去りました。
今日でも、賃上げのためのストライキは今年多くおこりました。
ボーイングをはじめ自動車各社におきて、いずれも大幅な賃上げが実現した事
は記憶に新しいところです。
しかし、賃金の過剰な引き上げは回りまわって製品価格に転嫁され売り上げ減少
につながり競争相手に敗れるという結果を招きがちです。
■しかし、そうして高賃金を勝ち取った人たちが、今更安い仕事をしたくない
という事なのだと思います。
そんな人たちが「夢よもう一度」とトランプの岩盤支持層になっているのだと
思います。
とはいえ、製造業の技術、コストは、アメリカが世界の中で格段に優れているとは
言えません。
様々な工業製品は世界各国で進化しており、第二次世界大戦前後のような圧倒的な
アメリカの強さは製造業に関しては影も形もありません。
正確に言えば、アメリカはデジタル産業で、かっての栄光を取り戻しています。
世界の隅々までアメリカのデジタル産業が浸透しています。
五大湖周辺からアメリカの産業の中心は西海岸に移っているのです。
■ラストベルト地帯の「スイングステート」は代議員数も多く(かっ手の名残です)
大統領選挙の趨勢を決めます。
しかし、モノづくりの「熟練工」中心の「岩盤層」の期待を実現するのは、極めて
難しいと考えています。
五大湖の水運を利用するために製鉄業、自動車産業などが集約した極めて寒い地域に
これから工場を作るべきでしょうか?
アメリカは人口の移動を繰り返してきた国です。
トランプ新政権の課題は、「岩盤層」の期待にどこまで添えるかどうかです。
単純に「関税」を上げてもラストベルトには好影響が出なかったことは前回の政権
時に経験しているはずです。
何をするつもりなのか注目です。
武器製造工場を強化するのがその手段ではないのか(第二次大戦時には自動車工場で
戦闘機を量産しています)そんな気がしています。