「日本株の水準が上昇して、1989年の「38915円」という日経平均株価
を超えてくると、日本銀行が膨大に保有しているETFが、話題にされる
事があります。
日本銀行が保有しているETFは巨額の含み益を抱えているからです。
また、そのETFが売却されると、市場の需給関係が一気に崩壊するのでは
と懸念する投資家も多いからです。」
■日本銀行によるETF買い入れが開始されたのは2010年12月からです。
低迷する株価とそれに伴う景況感の悪化を止める目的で、日本銀行が
当初は「日経225」のETFを買い付け始めました。
アベノミクスが開始された2012年末から、超低金利政策、円安促進政策
と並んで、心理的効果の大きいETF買いは、景気テコ入れの政策として
中心的になりました。
市場関係者の多くは、海外投資家などから売りがでて、株価水準が
下落してくると、日本銀行によるETF買いを期待したモノでした。
かくして、日本株の水準は、じわじわと、上昇をしていきました。
株式市場が順調に水準を上げて以降は、日本銀行による買い入れは中断
しています。
保有残高は2022年3月時点で51.3兆円です。
東京証券取引所の時価総額の7%程度です。
■しかし、市場関係者の杞憂は続きます。
時価総額の7%が市場に出てきたらどうなるのだろうか?
日本銀行は、ETFをどのように処分するのだろうか?
そもそも日本銀行が金利商品ではない(国債や社債のような)ETFを保有
していいのだろうか?
などなど様々な「岡目八目」の議論が百出しています。
あたかも、それまでの前例になかったETFの保有など異例中の異例では
無いかと古い人はコメントします。
さて、日本銀行がETFを保有することは悪いことなのか?
■日本銀行の使命は、経済の安定、雇用の維持、そのための金融政策の
決定などです。
株式市場の規模感が小さく、経済全体に与える影響が少ないと考えられ
ていた時代と現在は大きく異なります。
時代は明らかに「間接金融から直接金融」の時代に移行しています。
また、デフレ経済下で個別企業や個人が、生き残りをかけて、消費や投資
を控え貯蓄や内部留保に走りました。
個々の判断や行動は間違ってはいませんが、集合体となると、「合成の誤謬」
とでもいうようなデフレ経済が長引いたのです。
「景気の「気」は「気持ち」の「気」」とは言いえて妙だと思います。
景気の象徴としての「株価」は世の中の「気分」に大きな影響を与えます。
その意味で日本銀行は、デフレ退治のためのETF買い入れ政策を実行
したのだと考えています。
■デフレ時代が終えんを迎えつつある中、いつ売るのかを心配しても
実はしょうがないのです。
日銀の使命は、「経済の安定的な成長」です。
株価が過熱して、「バブル的」になった時、市場に冷静になるように
売りを出すことが容易に想像できます。
日銀が保有する国債を使って市中金利を管理しているのと同じことを
株式市場で行うだけだからです。
日銀保有のETFの売りで相場の天井が近いのではと懸念することは、まさに
本質を考えない「杞憂」だと考えている次第です。