「アメリカの「雇用統計」は、経済指標としては極めて重要です。
雇用者が増えているという事は、アメリカ経済が順調であるという証であり、
失業率にも大きな影響があります。
金融政策をはじめ様々な政策に影響を与えます。
当然株式市場にも影響が出ます。」
■アメリカの雇用統計は、アメリカの労働省が調査をして開示する数字と、
ADPという民間会社が独自に調査をして開示する数字と二種類あります。
労働省の統計数字は、企業経営者に調査をして、何人新規雇用者が増加したか
を調査したものです。
極めて信頼できる指標です。
対する「ADP雇用統計」は、ADPに登録している個人に対する個別調査です。
電話などで個人ヒアリングを行い「仕事に従事しているかどうか」などを
調査します。
別の意味で、信頼性がある指標です。
2月の雇用統計は市場予想の20万人から27万5000人と上振れしました。
アメリカの景況感が依然順調であることを示しています。
しかし、反面、失業率は3.9%と前月の3.7%から増加しています。
さて、ADP雇用統計でも、雇用者数は増加していますが、その伸び率は、前月比で
プラス0.5%程度に悪化しています。
雇用者数が増加したのに、失業率が上昇するというねじれの原因が、この統計数字
に隠されているかもしれません。
■アメリカの経営者はドラステイックにリストラを行います。
ある日突然、何百人、何千人の雇用契約を破棄します。
労働省の統計は、「お上」から「経営者」へのヒアリングですから、間違っては
いないものの、ADP雇用統計のように労働者個人へのヒアリングの方が、「現時点」
という意味でよりリアリテイがあるのかもしれません。
さて、ADP雇用統計が極めて低水準になっているという事は、問題です。
景気後退の兆しだからです。
過去何度も、ADP雇用統計が先見して示すこの数字の後退後に景気が減退しています。
明らかな景気後退になっていることも多くあります。
FRBの金融政策の転換は、パウエルFRB議長が描いている「利下げ」日程では
アメリカ景気の後退を防げない可能性があるのです。
■昨年のFRBの見通しでは、今年の6月から金利引き下げが始まるとされています。
それに対して、インフレの再燃が懸念されるとして、引き下げに疑問符もつけられて
います。
ADP雇用統計の現場の熱量と比較すると、乖離があります。
世界の株式市場にとっての懸念はアメリカの株式市場の下落です。
株式市場では「金利引き下げ」が最大の材料です。まさにその通りになりつつあります。
6月からの利下げでは、遅すぎる可能性もあるのです。
日本株の調整も気になりますが、アメリカ株式市場の調整局面の方が、長期化する
可能性もあると考えています。